リチウムイオン電池の火災安全性と火災発生メカニズム

1. 背景および目的

 リチウムイオン電池(LIB)はその高いエネルギー密度から、PC用電池、電気自動車、航空機や発電所の用非常用電源など様々な分野での産業応用が期待されています。一方、LIBの電解液には炭酸エチルメチル(EMC)などの可燃性有機溶媒が使用されており、他の充電池とくらべて火災安全性の向上が重要視されています。私達は「リン系難燃剤(OPC)添加によるLIBの火災安全性向上」に注目しLIBの火災安全性向上に向けて研究を行っています。私達は、OPC添加がEMCの可燃性に与える影響について、具体的にはOPCの添加量とEMCの消炎限界酸素濃度(LOC)の関係性を実験的に研究しています。OPC添加が与える影響や、難燃化のメカニズムを明らかにすることを目的とし、最終的にはLIBの産業応用に対して、より安全な充電池を実現するための有効的な情報を提供することを目標としています。

 

 

2. 実験概要

私達の研究では、EMCを「燃料」、リン酸トリメチル(TMP)や、リン酸トリエチル (TEP)を「難燃剤」として扱い実験を行っています。図2は実験装置の概略図を示しています。EMC単体、EMC+TMP5%添加など、難燃剤の添加量を変えた燃料をアルコールランプ等で知られる灯芯燃焼を用いて燃焼させ、消炎現象を調べています。燃料供給にはオーバーフロー機構を採用し、燃料供給量を維持します。また、酸素濃度および流速を変えることでLOCの測定を行います。その他、直接撮影による画像取得、火炎の発光強度、燃料食費速度、火炎温度などを測定することができます。

 

3 結果および考察

LOCの測定実験結果(図3)より、TMPの難燃効果がTEPに比べ高いことが分かりました。一方で、流速によるLOCの変化は大きく影響しないことが分かりました。また、難燃剤の無添加から5%添加時のLOC変化と、5%添加から10%添加時のLOC変化を比較すると、前者の変化率が後者の変化率を上回る結果となりました。また、難燃剤を加える事で、火炎温度測定の結果より、難燃剤を加えることで火炎温度が上昇することも分かりました。これにより、OPCを添加することで、化学反応による難燃化が進む一方、火炎温度上昇による伝熱的な変化が生じることになります。化学反応と物理モデルを同時に考えることは現象の複雑化を招くため、私達は化学的要素と物理的要素を分けて考えています。化学的要素に関してはCHEMKINを用いて化学反応の中から難燃化が進む原因となる反応を予測しています。物理的要素に関しては熱バランスを考慮することで難燃化に影響を及ぼしているかを考察します。最終的にはどの要素が難燃化に対して最も影響を及ぼしているかを特定し、新たな知見を得ることを目標としています。

 

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